最近の話題はコロナ関連に集中しているが、実は海ペディアが立ち上がった2020年12月1日に改正された漁業法(以下、新しい漁業法)が施行されていた。
まだ具体的な影響がないので実感が沸かないが、確実に水産資源管理を徹底する時代に突入したといっていい。
そこで、今回は新しい漁業法の一部を改めて見直し、漁業法に関連した将来像を考えてみた。
できるだけ専門用語を使わないように執筆したので、新しい漁業法を前向きに理解していただきたい。
目次
新しい漁業法の内容(資源管理に関して)
新しい漁業法の資源管理に関する主な変更点は、「水産資源の評価基準」と「資源管理の運営方法」だ。
他に「許可制度の仕組み」「違法操業の罰則」などあるが、本記事では割愛する。
水産資源の評価基準
新しい漁業法のポイントは、「水産資源を持続的に有効利用していく!」という従来と異なる目標を定めたことである。
従来の制度が目指す水産資源量は「親の魚の量が生まれてくる魚の量を安定して確保するために必要最低限の水準を下回らないこと」としていた。
最低限の水準とは、「絶滅しなければいい」とも解釈できるあいまいな部分もある。
実際、従来のTAC制度(漁獲の上限量)では、TAC内の採捕量であっても資源量を高位に維持できない状況もあった。
新しい漁業法における資源管理は、「最新の科学的知見に基づき、現在の環境下においてより多く、より安定して漁獲することができる水準に資源を回復・維持することを目指す」としている。
資源管理の運営
新しい漁業法では、大前提として漁獲枠を個別に分配する「個別漁獲枠方式(以下、IQ方式)」の採用を決定している。
従来は個別に漁獲枠がなく、全体枠を早く消費したモン勝ちのオリンピック方式であった。
それゆえに多くの漁業者にとって「獲れる時に、早く、大量に」が最も利益を出す運営方法となってしまう傾向にあるといわれる。
これに対しIQ方式では漁獲枠が個別に分配されるので、他船と競争して魚を獲る必要がない。
よって多くの漁業者は、「需要が高いときに、高品質で、適量に」の運営をしていく傾向があるといわれている。
IQ方式は海外の資源管理成功事例として紹介され、この方式を採用することが水産業を成長させたとする国もある。
しかし、IQ方式など新制度を導入してすぐに成功せず、何度も見直しがあり、失敗事例も多々ある。
我が国でも実情に合った運営を望むが、皆がそのままハッピーになれる運営は難しいかもしれない。
これまでの制度の中で水産業は発展してきた実績もあり、従来の制度が間違っていたとは思わない。
ただ、社会や水産業の状況からすると、今が変わるべき状況になってきていると感じる。
水産業を成長産業化するために
これまでの水産の歴史を知っている漁師であれば、ある魚の資源量が一時的に増えても、それを効率的に漁獲する設備への投資は極めて慎重になるだろう。
なぜならその魚の資源量は今後激減する可能性があり、少し先の投資に見合った中長期の収支が見通せないためだ。
このように設備投資に踏み切れないことは、水産業を衰退させた原因の一部とみている。
どのような産業でも成長を促すには、効率的な設備および新しいシステム導入を行わなければならない。
それらの導入を実現するためには投資が必要で、投資をするには収支が見通せることが前提条件となるだろう。
すなわち、水産業が成長するためには、水産資源を安定させ、中長期の収入を見通せることが必須となる。
投資や収支などの言葉が出ると「儲かる」を意識するが、儲かると同じくらいに大切なことがある。
それは、次の世代に豊かな資源を残すことだ。
上記グラフの3位にある後継者不足の解決策は、豊かな水産資源を次世代に残すことで解決できるのではないだろうか。
現在の社会の風潮は「経済性」と同じくらい「持続性」が大切だと著者は感じている。
世界で変わる人々の価値観
持続可能な○○といわれる活動は、一般世間に受け入れてもらう企業活動として必須になっている。
その代表的な取組としてSDGs、こんなバッチを見たことないだろうか。
出典:SDG_Guidelines_AUG_2019_Final_ja
SDGsは「持続可能な世界の実現のために定められた世界共通の目標」と訳され、17つの目標がある。
このSDGsの目標は2030年までに達成すると世界各国が了解しているので、今後のあらゆる活動はSDGsを無視できない。
出典:豊かな海の恵みを子どもの未来に。持続可能な水産業の証―MSC, ASC。 – イオンのプライベートブランド TOPVALU(トップバリュ)
近年ではMSC認証やエコラベルなど、上の画像のようなラベルを貼った商品を目にしたことはないだろうか。
このように店頭に並ぶ商品が「持続可能な水産物であること」をアピールする動きが少しずつ増え始めている。
しかしながら、日本において水産業の持続的利用との考えは浸透しているとはいえない。
上の動画では調査会社Ipsosが次のようにアンケート結果を公開している。
これは世界28か国で20,000人に「あなたが水産物を食べるとき、それが持続可能な漁業で獲れたものであることは重要ですか?」との質問の結果だ。
出典:How important is sustainable fishing when it comes to what you eat? – YouTube
残念なことだが、「水産業の持続性を重要だと考える人」の割合が高い国ランキングに日本は出てこない(35秒付近)。
そして「持続可能でない漁業は中止すべき」という意見に対し、反対する割合が高いランキングに日本は出てくる(50秒付近)。
今は我が国で持続可能な利用に関する意識は低いかもしれない。
しかし、我が国にはまだこの分野の伸びしろがあると考え、今回は上記アンケートを紹介させて頂いた。
我が国の水産業の将来について
SDGsなど社会活動は収益に結びつかないと思われがちだが、今後の将来には必要な取り組みと考える。
著者が漁業先進国と言われる北欧を視察したとき、様々な場面で経済性と持続性の両立を感じた。
一番印象的だったのは、働く人々の「幸せの追求」であった。
ここでは記載できないが、視察した企業の徹底された高効率システムには驚いた。
そのシステムは個人の技術に頼らず、誰でも操作できる仕組みがあり、その仕組みを創るには様々な業界のアイデアがあると聞いた。
働く人々は、オンとオフをきちんと区切り、労働時間中でも楽しむことを忘れていないと感じた。
その「幸せの追求」は、経済性を求めるだけの先には到達できない境地と思う。
我が国においては、我が国なりの働き方がある。
これまでもその働き方で成長してきたのだが、若者から働き方は大きく変わっていくはずだ。
著者も含め中高年は変化を受け入れるというか、追いついていかないといけないと思う。
水産業においては、人とお金が集まるような仕組みを意識していく必要がある。
新しい漁業法の枠組みの中で、生産者も行政も共通のビジョンをもって、柔軟にそこに向かうことが必要だ。
水産の現状からして、資源管理の徹底は将来の成功には遠回りに感じるかもしれない。
さらに、厳しい漁獲上限枠が設定されるのであれば、一時的には苦しい期間があり、補償が必要になることもあるだろう。
それでも、長期的な将来の成長産業化を考えるのであれば、新しい漁業法を前向きにとらえ、柔軟な姿勢で将来像を共有することが近道だと感じる。
本来は各所関係者に取材に行きたかったが、コロナ感染拡大により自粛した。
よって、業界先生に薦められた本や世界の資源管理などの情報発信をしている先生方の著書を参考にさせて頂いた。
我が国の水産業には、まだまだ応援してくれる味方と、技術開発ができる環境があることに改めて気づいた。状況を変えようを声を上げている方々を心より尊敬、感謝する。
著者は普通の会社員なので間違った表現や記載があるかもしれないが、ご了承いただきたい。
*最後に、本記事が少しでも新しい漁業法と価値観について考えるきっかけになれば幸いです。