現在沖縄県で深刻な問題となっている「軽石漂着」。
漁具メーカーである西日本ニチモウでは、漁業者を悩ませているこの問題に対し、業界と連携し、対策に取り組んでいる。
軽石漂着問題の対策には遅れてしまったが、海ゴミ回収でも利用できるアイデアを海ペディアでいち早く紹介させていただく。
目次
背景
2021年10月下旬、養殖案件で沖縄出張をした際、初めて軽石の漂流を確認した。
その時は軽石の漂着が大変なことになるとは想像すらしておらず、現地の方もさほど問題にしてなかった。
次に目にしたのは同年12月。
オイルフェンスで一生懸命に海面の軽石を集めているニュースを拝見した。
広い面積を掃海しようとすると、オイルフェンスの扱いはとても大変なはずである。
始動が遅かったが、オイルフェンスよりも手軽に使える回収網の開発へ動き出した。
「スタンドアップネット」とは
この問題を対策すべく、私たちはスタンドアップネットの開発をスタートした。
設計のコンセプトは、「軽くて、かんたんに作れ、丸めて収容できる網」。
オイルフェンスは大きなフロートを使用しているので、沈み込まずにフロートの大部分が水面に浮くことになる。
逆にフロートに錘をつけて沈み込ませれば、フロートが浮こうとする反動で立つと考えた。
完成形はこのような形だ。
オレンジのフロート部分がポイントで、水面から200㎜程立ち上がるように設計されている。
またフロートの下部には鉛が入っており、重心位置が水面より低いため、倒れることもない。
フロートは基本的に幅50㎝の網地の上下に、マジックテープで取り付ける。
上下にはメガネ網といわれる網を取り付けており、フロートの間隔を自由に変えられるようになっている。
オイルフェンスの容積を比較すると、スタンドアップネットはわずか約1/5となる。
このように、コンセプトのひとつであった容積を小さくすることも達成できた。
曳網時の抵抗値を比較するまではできてないが、構造上、抵抗値は下がると考えている。
大部分が網なので軽く、フロート部を極力すくなくすることで小さくなった。
写真のように、丸めてコンパクトに収納することも可能だ。
協力者の紹介
スタンドアップネットは、前述の通り網メーカーの技術だけでは決して完成しない。
ここからは開発にあたって力添えいただいた、協力各社の技術をご紹介したい。
救命胴衣メーカー
最初に声をかけたのは、救命胴衣メーカーだった。
「固型式の胸の部分だけ作ってほしい」と連絡すると、軽石問題のためならばと快く動いてくれた。
このフロートは救命胴衣に使われる丈夫な生地を基本とし、上下には強力なマジックテープが装着されている。
同社の誇る技術が存分に生かされており、こちらの要望する以上の製品が出来上がってきた。
鉛メーカー
続いては鉛メーカーにも協力を依頼した。
スタンドアップネットはフロートを立たせるために、鉛の形状を色々と試す必要があった。
私たちは鉛はこれまで通し鉛しか扱ったことがなく、漁業種に合わせたさまざまな鉛の形状があることに驚いた。
最終的にはフロートの中に埋め込む形となったが、同社の的確な提案と素早い対応が開発スピードを高めてくれたことは間違いない。
研究開発室
スタンドアップネットのアイデアを実現にするには、実際に網が立つのか、操作性がいいか等を確認しなければならない。
そこで相談したのが、ニチモウ株式会社の研究開発室だ。
同社はトロール網やまき網、駆け廻し網の模型を計測する水槽を保有しており、今回は10mのスタンドアップネットを使わせて頂いた。
想定している曳網速度は1ノット程度で、高速で曳網すると下部のフロートが吹き上がる。
曳網速度とフロートの浮き具合は、現場で調整しながら対応する必要がありそうだ。
仕様詳細
スタンドアップネットはフロートの錘を替えることで、水面上の高さを調整することができる。
錘を増やせば水面上の網が低くなるが、重心位置も下がり、安定性は増す。今回は3タイプを検討した。
水面上高さ | 水中部 | 空中重量/個 | |
軽量タイプ | 240㎜ | 260㎜ | 663g |
標準タイプ | 200㎜ | 300㎜ | 850g |
低重心タイプ | 150㎜ | 350㎜ | 1038g |
ネットはモジ網を使用し、上下にメガネ網がついている。
基本的には1mに1つの間隔でフロートを装着することを推奨しているが、回収する際はもっと間隔を開けても良いだろう。
ただし、張力がかかってない時は網が垂れ下がってしまうため、常設には向かないと考えられる。
スタンドアップネットの長さは50mを基本単位とし、価格は50mで393,200円だ。
標準タイプのフロート51個を含んでいるが、取り付けはされていない。
網目は約1.8㎜となっているが、まだ大きい網目も対応可能となっている。
ロープ等が必要な場合など詳細は、是非とも公式ラインなどを通じてお問い合わせ頂きたい。
最後に
まだまだ業界関係者同士で協力ができれば、いい製品ができ、様々な課題を解決できると感じた。
近年、水産業以外の高度な技術を用いた課題解決の事例をみることが増えた気がする。それ自体は必要なことであるが、まだまだ現場にはお互いの技術連携と想いで解決できる課題がたくさんあるように感じる。
海ゴミ問題も同じ。このアイデアが役に立つことを願っており、是非とも協力をしていきたい。
※製品化に向けてご協力いただいた東洋物産㈱、鉛のメーカー様、ニチモウ㈱研究開発室の皆様に心よりお礼申し上げます。
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