香住港を基地としている沖合底引き網漁船(以降、沖底船) 大祐丸に乗船した。
同船はもともと40tの大きさだったが、2023年に新船として19tの船を建造している。
今回は漁船を大型化する事例が多くある中で、あえて「小型化」を決断した理由を船主に聴取した。
近年の傾向
近年は漁獲能力、安全性の向上や居住環境改善のために漁船を大型化する事例が多くある。
実際に漁業全体の背景として、船の数は減っているが20トン以上の大型船の新造船割合(0~9年は増えている。
今回の大祐丸の取り組みはその流れとは真逆の方向性だ。
ここからは小型化によって実際に起こった変化について解説していく。
設備、操業方法
同船では、40t時代はリール船で左舷から曳綱を出し、反時計回りに打ち廻しを行っていた。
その後は寄せ漕ぎを60分程度行い、揚網作業を船首の右舷側で行う。
船尾左舷からの投綱、船首右舷からの揚綱となるため、作業場所が変わりウインチの切り替え等に労力が掛かっていた。
一方新船では、直巻き船で右舷出しの反時計回しに打ち廻しを行っている。
揚綱及び揚網作業ともに船尾側より行っており、選別作業以外のほとんどの作業が船尾のみで完結するため、省力化を実現した。
また、漁具規模を小さくした分、鮮度管理にも注力できるようになったという。
新船建造に際して漁獲物の一時冷却水槽や魚層の温度調整が可能な設備も導入し、鮮度良く水揚げできるようになっている。
新旧の操業方法を比べた結果、若干ではあるが新しい操業方法の方が早く操業が完了していた。
※直巻き船とリール船の違いについては下記URLよりご確認できます。
小型化を決断した理由
漁船の小型化を決断した理由について同船のZ船頭へお聞きした。
「正直、19t型で沖底船をやっていけるか不安であった。しかし新しくなった分、作業環境も整い省力化でき、船員の安全も同時に確保できる。また、設備も最新の機器を搭載することで鮮度の良い魚が水揚げできる。おまけとして、今までかかっていた経費も小型化した分少なくなることも考えたから」とのこと。
小型化した結果
昨今の新船建造の流れとは逆行しているようにも見える小型化であったが、目的は時代に先行した考えであった。
新船での操業がはじまって5か月が経過するが、漁獲量及び水揚げ金額は例年と変化していない模様である。
同じ水揚げでも掛かる経費が減った分、残る利益が増えているという算段だ。
また、安全性についても従来の船首から横ドラムを介さなくても揚綱でき、作業員が危険な場所に近づかなくても操業ができるようになっていた。
揚網時も安全な場所で揚網できるようになっており、船首右舷側に身を乗り出す必要がなくなっている。
最後に
今回の船の小型化は船員の省力化及び安全性向上を目的に実施された。
今漁期が始まり、2か月が経過し、小型化する大きな理由であった下記3点を達成していた。
- リール船から直まき船に変更することでの省力化及び安全性の向上
- 最新機器の搭載による鮮度向上
- 小型化による経費削減
今回の訪船では、船を大きくせずとも、省力化、鮮度保持技術の向上、経費削減を実現できることを教えていただいた。
今後、水産業も3Kという認識を脱するため、このような新しい取り組みが求められると考えられる。
新しい取り組みと言っても様々な取り組みがあるため、その地域・漁業種にあった事が必要だ。
その手助けとなる為、筆者は今日も勉強していく。