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【操業のリアル】長崎県定置網

長崎県上五島地区の定置網漁業会社、(有)有福水産を訪問した。

定置網漁業とは、一定期間、魚の回遊する場所に網漁具を設置し、網に誘導された魚を獲る漁法だ。

今回は定置網漁業において新たな思考、技術を取り入れている同社の取り組みについて紹介する。

目次

  1. (有)有福水産について
  2. 省人省力化を達成するための工夫
  3. 漁具の改良がもたらした効果
  4. 魚の価値を高める取り組み
  5. 今後の展望

有福水産について

とても希少な黄金色のヒラマサ

有福水産では、長崎県上五島の水深60m程度の海域にて片底、片浮箱の大型定置網を設置している。

周辺はたいへん豊かな漁場であり、アジ、サバなどからブリ、ヒラマサ、クエといった大型魚まで、さまざまな魚種が漁獲される。

代表の今本氏は、弱冠25歳の若社長だ。

若手経営者ならではの斬新なアイデアを持ち、漁具の選定、仕立、操業、水揚げ、出荷の全てにおいて既存の枠にとらわれない取り組みを行っている。

省人省力化を達成するための工夫

リング式の採用

コーンローラー:最低でも7人の人員が必要であった。

定置網漁業では、「コーンローラー」とよばれる機械を用いて、網地を直接つかみ込んで網を締め込み魚を追い込んでいく形をとっている船が多い。

しかしコーンローラー式は使用する機械が多く、操作に必要な人員が増えてしまうという懸念点がある。

ツインキャプスタン:5人での作業が可能になった。

有福水産でも以前はコーンローラーを用いた網上げを行っていたが、近年は人手不足のために新たな形での操業に変更した。

現在は「リング式」と呼ばれる「ツインキャプスタン」を用いた操業を行っている。

リング式は網漁具に張り巡らせたロープ(ステンレスリングを各部に固縛しており、これにロープが通っている)を巻き込むことで効率的に網をしめこんでいく方法だ。

リング式は導入当初の漁具の仕立に時間を要するが、使用する機械・作業人員を大幅に削減可能。

従来のコーンローラー式で最低7人必要だった作業人員が、リング式を採用することで5人にまで削減することができた。

削減できた人員は陸での網修理、出荷調整用の生簀管理等の作業に専念出来るようになっている。

情報共有による業務効率化

バックモニターは乗用車向けを流用したものであり、低コストで導入できる。

有福水産では省人省力化の一環として、船に2種類のカメラを設置している。

ひとつは船の後方を見るためのバックモニターだ。

ブリッジで操船しつつオモテ(船の前方)の作業状況を目視で確認しながら、トモ(船の後方)での作業状況もバックモニターで確認出来るようになった。

これにより、作業効率が格段に上がり、船員の安全性も向上したという。

船のネットワークカメラ。画角の移動・拡大も可能。

ふたつめはネットワークカメラと呼ばれる船上の映像(リアルタイムの動画)を遠隔地で確認できるカメラである。(携帯電話の電波が入る海域でのみ使用可能)

カメラの映像をタブレット端末で視聴することで、市場で待機している人員が水揚状況を把握し、箱たて(魚の箱詰め)の準備をスムーズに行えるようになった。

このような作業の効率化だけでなく、船頭が沖に出れないときでも操業の状況を見て指示を出したり、操業中の安全確認にも役立っている。

また今後は出荷先のひとつであるスーパー、居酒屋へ動画を転送する使用方法も検討されているという。

これら2種のカメラは(株)ライトハウスの協力のもと導入した。

船主の意向を加味し、製品改善を今後も継続して行っていく予定である。

漁具の改良がもたらした効果

魚捕部:従来は14節(23.3㎜)だったが、現在は10節(33.6㎜)を使用。

有福水産では、小型魚の漁獲削減や網への流水抵抗の低減を目的として、網地の目合(網の1目の大きさ)の拡大を行った。

従来は10節(33.6㎜)であった箱網(魚を追い込む部分の網)を3寸(90㎜)に変更。

魚を最終的に取り上げる魚捕部の網は、従来14節(23.3㎜)だった目合を10節(33.6㎜)に変更している。

これまでは価値の低い小型魚がたびたび網にかかっていたが、現在では小型魚の割合は減少傾向にある。

また目合を拡大したことで潮抜けがよくなり、網漁具への流水抵抗、汚れも軽減された。

結果として水揚げ時の選別の手間が省けるうえ、網掃除の頻度も減少したそうだ。

組紐構造のUC網

また従来の無結節網をUC網(組紐構造の無結節網)に変更したことも網の破れ防止につながっており、修理頻度の低減に貢献している。

イザナス®を使用したUC網を金庫の天井網に使用している。

部分的にイザナス®(ポリエチレン系超高強力糸)を使用したUC網も使用しており、急潮流においてもイザナスUC網の破れは発生していない。

爆弾低気圧(2021年1月7~9日の寒波)の荒天下においても網の破れはなかったという。

網地を引き上げるロープは従来、PP特殊モノフィラメントを用いたクロスロープ(タフライン)が主流であったが、ハイブレンドクロスロープを採用している。

従来品と比べると強度、耐摩耗性が向上し、結果として耐久性の改善につながった。

魚の価値を高める取り組み

細心の注意を払って漁獲物の鮮度保持が行われている。

有福水産は通常の出荷作業に加え、鮮魚ボックスの自家出荷も行っている。

今回は鮮魚ボックスの出荷に立ち会った。

高い技術を持ったスタッフによって、脱血、延髄破壊、神経締めといった処理作業が行われている。

有福水産は魚の処理だけではなく、輸送時の鮮度保持にもこだわりを持つ。

一般的に氷が溶けることで発生する真水は、魚に触れ続けることで鮮度劣化を早めてしまうといわれている。

輸送時には魚に真水が直接触れないように、魚をビニールで覆い、更にパーチを敷いたのちに氷を投入している。

販路の構築

今本社長は既存の販路だけを活用するのではなく、新たな販路の開拓にも力を入れている。

社長自身で全国各地の市場へ出向き販路を構築し、更に居酒屋などの飲食店や末端消費者への販売も行う。

他にも「漁師さん直送市場」というインターネット通販サイトにも出品している。

また沿岸設置の角型、円形生簀、小型の陸上生簀も保有している。

従来のようにただ獲れたものを売るのではなく、顧客のニーズに合わせて出荷調整ができる体制も整っている。

特大のクエ 神経抜・血抜き等を行い、ひと手間加えたことを示すタグを付けている。

この他にも独自のタグを付けてブランド化を行うなど、魚の価値を高めようと取り組んでいる。

新たな販路の構築はコロナ禍以前から行っている取り組みだが、コロナ禍における水揚金額の低迷の中で重要度は増すばかりだ。

鮮魚ボックスの出荷は多大な手間が掛かっているため、一日に出荷できる数量は限られているが、顧客の期待に応えるために日々の操業、通常の出荷作業と並行して行われる。

今後の展望

近年では定置漁業に加え、活魚運搬船を用いた活魚運搬事業も行っている。

五島内の養殖業者から養殖魚の運搬を請け負い、長崎港へ運ぶという。

スタートして数年の事業であるが、有福水産の収益の柱となりつつある。

既存の操業方法・漁具の仕立方法の改善、販路の開拓、新たな事業、これら全てを実施しても尚、今本社長は

「新たな事に挑戦し続けなければこの先、自分たちは漁業を続けていけない。いつまでも人と同じことをやっていてはだめだ。」という。

筆者はそろそろ若手とは言えない年齢になりつつあるが、同じ水産業界に携わる若手として、今本社長は尊敬する経営者だ。

我々漁具資材メーカーも既存の事業を発展させつつ、常に新たな事に挑戦していかなければならないと強く感じた。