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【操業のリアル】東日本のまき網漁業と漁業サポーター

今回は漁獲量が多いまき網、特に海ペディアに紹介されていない東日本(北海道から千葉県の太平洋沿岸)で操業するまき網と、漁業のサポート方法について記載する。

目次

東日本のまき網の特徴

漁業サポート事例(漁具Ver.)

  • 模型実験による性能確認
  • メンテナンスを減らせる網
  • とにかく強く長期間使える網とロープ
  • 柔軟性を高めた網
  • 耐摩耗性を高めた網

漁業サポーターとは

東日本のまき網の特徴

出港間近のまき網船団

日本のまき網漁業は、魚群を探す探索船、魚群を囲い込む網を積んでいる網船、その魚を漁港へ運ぶ運搬船に役割分担される、いわゆる船団操業である。東日本には網船の大きさが14トンから19トンまでの中小型は20船団、80トンから300トン超の大中型は23船団所属している。時期によって他の地域からも大中型船団が20船団ほど加わることもある。

対象とする魚種はサバ類・マイワシを中心に、マグロ・カツオ・スルメイカ・ブリ・カタクチイワシなどである。漁具の規模は網船のサイズ等によって様々であるが、網の長さは約1,500m。瀬戸大橋(兵庫県)や銚子大橋(千葉県)に近い長さである。網の深さは約250mであり海表面から約150m迄の魚群を網で囲い込んで漁獲する。

出典:(社)全国まき網漁業協会

東日本では基本的に夜間にのみ操業し、西日本で用いられる集魚灯を使わないルールになっている。ルールは他にも沢山あるが、操業毎に漁業者自ら1晩に網を張る時間・回数を全船統一させ、海が凪であっても資源保護を目的に全船申し合わせ休漁をすることが特徴である。操業は年間で100~120日(もちろん操業しない日も船や網のメンテナンスをしているので仕事しています!!)で、夕方に出港し、朝には帰港する。

ブリッジ内には所狭しと電子機器が配置されている

漁撈長や船長が指令を出す部屋(船橋・ブリッジ)は、漁業に従事していない方から見れば、まるで宇宙船の中にいる感覚を抱くに違いない。安全航行のレーダー類、魚群の大きさ・水深・魚の向き・魚種・密度等を計測する様々な周波数のソナーや魚群探知機、安全操業のためのカメラ映像を映すモニター等などで埋め尽くされている。

「漁師は魚を獲ってなんぼのもんじゃ!」、「久しく陸を見ていない」なんて言葉は全くない。真っ黒に日焼けし、腕は丸太の如く、サングラスからシワを寄せた眉間をチラつかせ、咥えタバコに腹巻を備え、日本酒と演歌で鍛えぬいた喉で大声を張り上げる漁師のイメージ(筆者の妄想も含む)も皆無である。まき網船団は経験と情報、ハイテク電子機器を操りながら、法律や非常に多い地域毎・季節毎の協定を遵守し、船員の安全を第一に限られた時間で仕事を進める。近代的な企業である。船の大きさが199トン以上になると漁場に合わせて操業することから、母港に戻らず別の港に入ることもある。その場合は船で寝泊まりするため、多くの船は船員に一人一部屋テレビ付を割り当てる。風呂・トイレ・冷暖房完備で食事にも困ることはない。

使用する網について

網の材質は東日本ではナイロンが主流だ。様々な漁業用繊維に比較して耐候性は低いが、荷重が掛るとよく伸びることが特徴である。西日本ではポリエステル(テトロン)が主流であり、伸びは少ないものの比重が大きいことから網の沈みが早い。この差異の理由は様々であるが、東日本は比較的浅い海での操業が多いことが一つの理由として挙げられる。

網の目の大きさ(目合(めあい))は主に27.5㍉から31.9㍉。一般の方から見れば殆ど同じ目合に感じるかもしれないが、長さ1500m深さ250mの網には約5,300,000ヶの網の目があるわけで、その目合が大きければ潮流によって網が変形することが少なく素早く網を沈められ、必要な網の数量も減らせて経費削減になり、目合が小さければそれらが逆になる。従い、僅か数㍉でも漁業者は目合を極めて慎重に判断する。また、魚がその網の目に刺さってしまうと…1尾80gのイワシであれば424トンの重さが網に掛る!無論、網は裂けるだけでなく強靭な漁撈機械でも網を船に揚げられず、大きな船でも転覆事故につながる。つまり、まき網にとって目合は極めて重要である。

黄色い漁具が浮子(あば)

網の上にはロープ(浮子綱(あばつな))が付く。浮子綱は網を強い荷重から守り、網を海中で膨らませるために網よりも35%ほど短く、浮力4kgのフロート(浮子(あば))が約3,200ヶ付いている。網の下にもロープ(沈子(ちんし)綱(つな))が付き、それには海中に網を沈ませるためのオモリ(沈子(ちんし))が付いている。西日本では沈子としてチェーンや鉛入りロープなど多様な種類がある。一方、東日本では鉛が主に用いられ、最近は操業中に網をキズつけず、変形もし難く長期間繰り返し使える“海っ子”なる可愛らしい商品名のオモリが流行っている。

沈子(ちんし)「海っこ」

先ほどまき網船団は近代的な企業と記載した。企業には役職があり指揮命令系統が存在する。無論、まき網船団にも役職がある。特に大海原で船員の安全を守る上では絶対に必要である。漁場を定めて魚を獲るまで全ての指揮を執る船団のトップである漁撈長(ぎょろうちょう)、船全体の責任者である船長、気象や潮流の状況を踏まえて船を操縦し船員の指揮をとる航海士、エンジン等や漁撈機器を管理する機関長、無線を操り情報の受発信を担う局長、甲板上の作業や漁具の状況を把握し船員の配置を取り決める甲板長など重責な役職ばかりである。

しかし忘れてはならないのは網大工(網師)である。網大工は漁網メーカーにも存在するが、まき網船団には専属の網大工が数名いる。漁具のメンテナンスは勿論、設計や改造まで、船団の操業状況に合わせて思考を巡らせ柔軟に対応し、海が荒れて操業できない時でも休むことなく素早く手足を動かし勤勉に働く職人である。正にまき網船団を支える縁の下の力持ちである。世の中にどれだけ機械化やAIが進んでもロボットが網大工の代わりには成れないと思う。

大漁を支える網大工の手から繊細さと力強さを感じる

漁業サポート事例(漁具Ver.)

漁業サポートとは、漁業者の安心安全好漁操業に関する様々な課題を解消し、ニーズを満たし、漁業者に夢を実現して頂き、将来的に豊かになって頂くための意味ある技術や情報、製品を提供・共有することである。それぞれの各論の説明は紙面の都合により割愛し、少しだけ漁具によるサポート事例をご紹介する。読者が眠くならないように留意するのでご安心頂きたい。

漁具の設計から製作、納品、性能確認は基本中の基本

いきなりだが、まき網漁業にとって「良い網」の条件とは何だろうか。

その答えは「漁撈長のイメージ通りに働く(挙動)する網」である(と筆者は考える)。どんなに格好よくても、宝石のように綺麗でも、大きくても小さくても、軽くても重くても、狙った魚だけが網の中に入らなくてはどうしようもない。それと同じくらいに重要な条件として「耐久性があり使いやすい」がある。

それらを踏まえた漁業サポートの事例を紹介したい。

シミュレーションと模型実験により性能確認

漁撈長から「ここをもっと膨らませたい」、「使用中の漁具の規模を変えず水面下〇〇mのサバを獲りたい」などご希望を頂いた場合、漁具メーカーであれば様々な計算が可能であるが、漁撈長と共に目で見てイメージを共有できる手法は、小難しい計算でもなければ理論数値でもない。それはコンピューターによるシミュレーションと模型実験を通じて想像するしか方法は無い。しかし「シミュレーションは非現実性が余りにも多く、模型水槽は海では無い」との意見もある。確かにその通りであるが、漁具の傾向を把握するには現時点でこの方法のみであり、これらを駆使して成功を積み重ねている船も増加中である。

水面下だけ速い浅海域での操業などを造りその漁具の性能を確認する

模型実験動画

シミュレーション動画

メンテナンスを減らせる網

出典:水産庁

漁具はメンテナンス(修理)が必須である。しかし漁業就労者数は減少の一途を辿っていることから、豊富な人財により修理をすることは困難である。そもそも修理に掛ける労力はシンプルに小さければ小さいほど良い。早くスマートに仕事して、自分の時間を充実させる現代社会では尚更である。

大切な漁具のメンテナンスは必須だがそれが時短出来れば尚良い

まき網にとって小さな穴の発生は致しかたない。恐ろしいことは短時間で修理ができないような大きな破れである。パンッパンに張られた布にキズを入れた瞬間に一気に裂けていくような破れ、これを走破(そうは)と呼ぶ。走破は海底や船体に網を引っ掛けたとき、魚が網に入り過ぎたとき、そして小さな穴が発生源となるときに発生する。走破が起こると当然魚は獲れず、網の修理に時間が掛かるだけでなく、修理不可能となり新たに網を購入する費用と時間が掛かる。昨今のまき網では、これを防ぐために様々な手法が採用されている。

その1つは、Ultra Crossネット(UC網)の積極的な採用である。これまでまき網に用いられてきた主な網は2つの撚糸を“よじって”構成されている。この網は結び目がないため新品時には強いが、網に一つでも小穴があると、そこからよじれが解けて大穴となり走破の要因になる。

一方でUC網は4つの撚り糸を“組み込んで”構成されていることから、小穴ができても拡がりにくいため走破を未然に防ぐことが可能である。

その違いをご理解頂くために、漁業者の網大工の方に網脚の一部を切って本気で引っ張ってもらった。

一般的無結節網 と UC網の比較

実際にUC網は修理の労力が格段に減少しリピート率は100%である。

しかしUC網には重大な弱点がある。それは小型のイワシ等を獲るための小さな目合(3cm未満)が出来ないのだ。漁網メーカーには可及的速やかに対応策をお願いしたい。

とにかく強く長期間使える網とロープ

走破を止めるスペクトラ網(黒い網)

東日本のまき網では、ワイヤロープと同等の高い強力をもったダイニーマ®やイザナス®と言った高級繊維を網やロープに用いることも多い。最近では、それら高級繊維の弱点であった継続使用による縮みとケバ立ちを軽減できるスペクトラ®繊維を用いた網やロープの採用が目立ってきた。少量の使用であればお財布にも優しく、何と言っても走破を止められる。スペクトラ繊維を使ったUC網であれば完全防備と言える。スペクトラ繊維の網のリピート率も100%だ。

走破を止めるスペクトラ網(黒い網)

日本は網の分野では世界一の技術力を誇る。日本の中古網が海外に出回るほどだ。しかしロープの分野では欧州に軍配が上がる。このようなことを書くと国内のロープメーカーを敵に回してしまうが、残念ながら事実である。最近の東日本まき網船において、ワイヤロープの代わりにアイスランド製の超高強力ロープを用いる船も出現してきた。

アイスランド製のロープ「Dynice Warp」。同部径であれば日本のどの繊維ロープより強い

Dynice Warpは数種類のダイニーマ®を組み合わせて凄まじい強さを生み出している。具体的には耐摩耗性に特化したダイニーマ®を外側に配置し、強力に特化したダイニーマ®を内側に配置させて、それらがズレないように特殊接着させている。西欧の超大型トロール船では、網を引っ張るワイヤロープからDynice Warpに代わってきているほどだ。ワイヤロープよりも強く、値段は高価であるが、重量はワイヤロープの20%未満、耐久性は現在検証中であるが現時点でもワイヤロープの3倍以上であり、ユーザーは極めて高い評価をしている。いったいワイヤロープの何倍までの耐久性が実証されるのか楽しみである。

柔軟性を高めた網

柔らかくて強いマリンブレンドUC網(青い網)

強いことが良い網であれば、全て上述の高級強力繊維で出来た網を使えばいいのだが、全てに高級品を使う必要はない。強力は劣るが比較的安価なポリエチレン繊維の網を太くして網の一部に用いることも多い。しかしポリエチレン繊維は何と言っても継続使用によって大きく縮み、硬くなる。これでは漁具として設計当初の性能が出なくなるだけでなく、狭くて足場が悪い網の上で作業する乗組員は大変だ。

そこで東日本のまき網では、ポリエチレン繊維と同様に縮まず、硬くならず、柔らかい太い網が使われ始めた。

従来の収縮して硬化するポリエチレン網と比較して、この網(マリンブレンドUC網)の価格は正直なところ若干(数%)アップするものの収縮は極めて少なく硬化しない。

この網は漁業経営者も乗組員にも好まれる。全てのまき網船にお勧めできる。

耐摩耗性を高めた網

とにかく摩耗に強いハイブレンドUC網(水色の網)

さらに少々硬くても、縮まず、極めて摩耗に強い網(ハイブレンドUC網)も使われ始めた。

マリンブレンドUC網に比べて少し硬いため敬遠する漁業者もいるが、一度使った漁業者は使用範囲をどんどん拡げている。

漁業サポーターとは

漁業サポーターは仕事人である。仕事である以上、対価を頂かなくてはならない。仕事で対価を頂けるのは、お客様である漁業者の幸せを実現するからである。

漁業者にとっての価値が本当の価値であって、自分だけが利益を出したいとする価値は漁業者にとってガラクタ同然の価値しかない。漁業サポーターは自分が信じていないものを、会社や自分らの成績の都合だけで恐る恐る低姿勢で買ってもらう、泥臭い御用聞きなどではあってはならない。あたり前である。

それは何故か。大切なお客様である漁業者の理想を叶えることができる救世主が漁業サポーターだからだ。漁業者のどんな小さな課題でも誠意をもって解決に取り組む。ひとつひとつの出会い・話し合いを大切にする。真面目な医者のような感覚とも言える。そして大海原で命をかけて仕事をする漁業者の夢実現に役立ち値打ちのある技術や安心・快適さ・満足さをご提供し、豊かになって頂く。筆者はこれを漁業サポーターの目標と定める。

今回、筆者は主に新しい取組みをご紹介したが、ご周知の通り世の中には古いままの方がいいこともある。新しいことが必ずしも正しいことではない。それを責任持って本気で見極めることも我々漁業サポーターの使命である。何が間違っていたのか、何が足りなかったのか。 失敗したときに本気で原因を追求するからこそ、次に繋がる。今は変えられなくても、未来は変えられる。

そして漁業者には、本当の漁業サポーターと共に歩み、発展して頂きたいと心底願っている。

海ペディアメンバーのコメント

この著者は新しく企画して製造した新商材を、次々と漁業者に紹介しては採用してもらい、その結果を製造部門にフィードバックしてくれる。マリンブレンドの開発のきっかけは著者の「漁業者が喜ぶ、柔らかくて強い網が欲しい」との当たり前だけど製造部に届いていないニーズを素直に届けてくれたことが始まりだった。

先日、残念な話を聞いた。最近の若者は営業職を嫌がるらしい。営業=販売実績を上げる。とのイメージが強いのだと思う。今回の著者も営業職であるが、漁業サポーターと言い張る。実際に著者からは営業の感じはなく、受ける印象は「水産業界を良くしたい」との使命感だ。私自身も、営業は社会に貢献でき、様々な企画を通じて新しい事を生み出す素晴らしい職業だと思う。水産業界は漁業サポーターの出現を待っている。

※海ペディアメンバーの主な活動地区は西日本ですが、今回は東日本を担当する漁業サポーターから寄稿して頂きました。実は、海ペディアは水産業界からの寄稿もお待ちしております(掲載はメンバーの確認後になります)。寄稿については海ペディア公式LINEよりお問い合わせください。