2022年10月27日、筆者が開発に携わっている電気刺激装置のプロジェクトが「公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会会長賞」を受賞した。
これは北海道から沖縄まで水産業に関わる多くの方の叱咤激励、大学や研究機関の協力があってこそ実現した成果である。
今回はこの電気刺激装置を例に、我が国の水産業が多業種との連携による「のびしろ」が多くあることをお伝えしていきたい。
目次
電気刺激装置とは
電気刺激装置とは、魚を鎮静化させる装置である。
2021年にマット式による「電気不動化」を実現してから、養殖業や定置網漁業などで一気に普及することとなった。
多業種との連携の事例

受賞した業績は「電気刺激を利用した活魚取り扱いシステムの開発と技術普及」である。
このプロジェクトは私たち3人だけでやってきたことではなく、多分野との連携があってこそ実現した成果だ。
漁業者の協力
電気刺激装置の漁業現場使用は、北海道の定置漁業における秋鮭の活〆が始まりだった。
最初の導入に向けては反対の意見もあったが、「これからのために活〆(魚価向上)は絶対に取り組んでいくべきだ。」という組合長の一言で導入が決まった。
実際に資源量が減る中で魚価向上に貢献し、導入1年目から効果を出している。

開発は常に試行錯誤の連続で、装置の導入費用と同じ金額の損害を出したこともある。
多くの方にご迷惑をかけたにも関わらず、「いいんだ、将来につながるんだ。」とお言葉を頂いたこともあった。
関係する皆様のお許しがなければ、この装置は世に出てこなかったと断言できる。
魚の鮮度にこだわる日本だからこそ、育てられた装置であるといえよう。
技術の開示
本装置の開発を通じて、これまで知りえなかった各社の取り組みを見てきた。
すべてにアイデア、工夫があり、どこがベストとは言い切れない。
上の動画で実施されている頭を並べる方法も、かんたんではあるが隣の業者でも知らないことであった。
この動画の撮影および公開を問うと、「いいことはどんどん開示しないといけない時代」と、水産業を皆で発展させていこうという気持ちを頂いた。
異分野とのコラボレーション

水産業は異分野とのコラボレーションにより、まだまだ成長できると感じている。
今回共に表彰式に出席した末松電子製作所は、イノシシなどの獣害を電気刺激で対策する技術を持っている会社だ。
水産とは異なる分野であるが、同社の槌山さんがいなければ魚を鎮静化させる適正な電気条件は見いだせなかった。
また、この技術を開発する上では電気刺激のメカニズムについても学ぶ必要がある。
人間の医者に電気の心臓への影響を教えて頂き、知識を深めたこともあった。
ニチモウグループ一丸で対応

普及活動は西日本ニチモウだけではなく、ニチモウグループが一眼となって対応してきた。
会社によって専門は漁具や飼料と別れるが、これまで100台以上の導入実績を積み上げている。
担当者も漁業者も電気の恐怖と戦っていたが、ニチモウグループを筆頭に、水産業界の人は挑戦が好きなのだと知った。
これからの水産業に必要なこと

このプロジェクトを通じてさまざまな学びを得たが、一番良かったことは、「我が国の水産業は、連携による『のびしろ』が多くある」と理解できたことであった。
業界がさらなる発展をしていくためには水産全体へ貢献できる情報共有と、水産技術の挑戦的革新が必要だ。
最近はデジタル化も進み、一昔前の「それは水産業には合わない」という空気はなくなくなりつつあり、それを実行できる地盤は大いにあると考える。

筆者はこの事業をきっかけに活〆技術の興味が深みにはまり、海外の論文も見るようになった。
しかし、我が国ほどに魚の品質を考慮していることはないと感じる。
獲れる魚、養殖される魚の品質は、取り扱い方法で大きく変わる。
取り扱う人の技術、気持ちは世界に通用するだろう。
円安の追い風も吹き、日本の魚や取り扱い技術を世界に知らしめるため、連携して情報発信すべき時期が来たと感じる。
最後に

最後に改めて、導入しつつアドバイスをくれた皆様(北海道、青森、宮城、東京、福井、兵庫、愛媛、香川、静岡、島根、鹿児島、三重、高知、熊本、佐賀、長崎、和歌山、宮崎、大分、東京)、水産大学校、鹿児島大学、近畿大学など指導頂いた先生方、たくさんブリを提供いただいた研究所の方々、サポートしてくれる会社の皆様、理解し支えてくれる家族に感謝を申し上げる。
本当にありがとうございます。
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