食用魚を屠殺するには、「〆る(しめる)」という言葉が用いられる。
〆にはあらゆる方法があり、どのような〆をするかによって魚の価値は大きく変動する。
今回は一般的に施されている魚の〆について、経済的なメリットを含めて紹介していこう。
野〆と活〆の違い
野〆とは、魚を陸や氷水に晒すことで自然に命を落とさせる〆方だ。
一方で、活きている魚を即殺する作業を活〆という。
一般的に「野〆」「水氷締め」を野〆、「エラ切り」「延髄切断」「神経〆」を総称して活〆と呼んでいることが多い。
野〆
野〆とは、魚を空中や密閉した空間で苦悶死させる方法だ。
魚の質は低下しやすくなるが、あらゆる〆方の中で最も手間がかからない。
おもに大量に水揚げして直ぐに加工する場合や、冷水域で水揚げされる魚に用いられる。
水氷〆
水氷〆とは、魚を水氷に投入し、凍死させると同時に魚体を冷却する方法だ。
氷や保冷設備のコストは掛かるが、手数をかけずに大量に処理ができるうえ、その後一定の鮮度が維持される。
沖での作業や水揚げから加工・消費まで時間がかかる場合に適しており、おもに定置やまき網で実施されている。
活〆(エラ切り)
活〆とは、「活きた魚の延髄に刃物を入れ、神経と血管を切る」ことであるといわれる。
エラ切は活〆のひとつであり、魚のエラ部分の太い血管を切断して放血させる方法だ。
血管を切って水氷の中を泳がせることで、エラの血管から体内の血を抜いていく。
魚は暴れるが、放血をすることで魚独特の血生臭さを抑えることができる。
エラ切りは活〆の中では最も力を必要とせずに実施できる〆方であり、鮮度を重視しない加工向けには適している。
とくに冷凍など輸出向け製品では、鮮度以上に脱血されているかが重視されることもある。
上の写真のように、脱血しているブリとしていないブリを比較すると一目瞭然で効果がわかるだろう。
活〆(延髄切断)
延髄切断とは、脳と脊椎の間の神経を切断する方法だ。
脳からの神経伝達が遮断されるため、脳による筋肉の随意運動を抑制される。
この処理により、体内にエネルギーを蓄えたままの魚を消費地へ届けることができる。
ブリや真鯛などの養殖魚を出荷する際には、この延髄破壊の処理が行われていることが多い。
近年は一自動活〆機などが普及しており、一定サイズの魚であれば効率的に処理できるようになった。
しかし、サイズや魚種が揃わない定置網などの天然漁業では手間のかかる作業となる。
神経〆(延髄破壊)
神経〆とは、上記の延髄を切断したあとに、脊髄にある神経を針金などで破壊する方法だ。
神経を破壊することで、脊髄反射による魚体のけいれんを抑制する。
神経〆は今回紹介する〆方の中ではもっとも手間がかかる方法だ。
しかしながら、鮮度保持効果や消費者への鮮度感の宣伝効果はどの他の〆方よりも大きい。
魚の価値とは
魚の価値とは費用対効果であり、売価―手間=儲け(価値)である。
例えば脱血を求める加工業者では、神経締めした魚よりもエラ切りした魚に高値をつけることもある。
生産側からすると「手間」=「価値」と考えたいところだが、過剰な手間は利益の減少、場合によっては損失になることもあるということだ。
しかしながら、生産者が手間をかけて、丁寧に扱った魚は本当に美味しい。
筆者が実際に食した長崎のカツオ、北海道のサクラマスなどは、人生の思い出といえるくらい感動した。
実際に扱う人と話しをしたり、獲れた場所に立ち会うなど気持ちもあるが、近年では科学的な根拠もあるので機会があれば紹介したい。
最後に
魚もニーズに合わせて処理することで、費用対効果を見直す時代に入っていると感じている。
筆者はかつて漁船に乗船した際、活〆をした魚を上場したところ、【傷物】のクラスに割り振られてしまいとても悔しい思いをしたことがある。
魚の価値をあげたい想いだったが、その市場では特定の魚種の活〆は評価基準がなく、傷物にせざる得ないとのことであった。
上質な魚を届けるためには、市場、消費者の活〆に対する認識が必要と感じた。
生産者の手間と想いが、消費者にきちんと届く、場合によっては流通業者によって効果的に広く届くような流通を願う。
いよいよ我が国の経済優位性も陰りが見え、食料自給率について真剣に考えなければならない時代に入り始めた。
評価されない手間をかけるのではなく、効率的に国産の水産物を流通させて、高価にする方法を消費者に聞きながら考えていきたい。
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